〈 1 〉 「腎・透析センター」受診までの経緯

40代男性。2015年、職場健診で初めて糖尿病を指摘されました。2017年には肺炎を契機に心不全が悪化し、当院の循環器内科に入院。心不全の背景にある狭心症に対して心臓カテーテル治療がなされました。同時に当院の内分泌内科で糖尿病治療も開始されました。

〈 2 〉 「腎・透析センター」への受診

2020年1月、徐々に進行する腎機能障害のため、当院の「腎・透析センター」に紹介されました。初診時、クレアチニンは2.97、糖尿病性腎症による慢性腎臓病(CKD)と診断しました。すでに高血圧や高コレステロール血症に対する治療はなされていたため、腎性貧血や高カリウム血症に対する治療を追加。食事療法を徹底し、末期腎不全への進展をできるだけ先延ばしにする目標を立てました。将来的に末期腎不全へ至った場合の「腎代替療法」として透析療法(血液透析・腹膜透析)と腎移植があることを説明しました。

〈 3 〉 慢性腎臓病(CKD)の悪化

当院には循環器内科・内分泌内科・「腎・透析センター」に1か月おきにきちんと通院していただきました。下腿にむくみが出てきたため利尿薬、低カルシウム血症には活性型ビタミンDを追加。しかし、腎機能は徐々に悪化し、2020年5月にはクレアチニンが4を超えました。数か月後には腎代替療法が必要になる可能性が高いと説明し、生体腎移植を選択する流れとなりました。

「腎代替療法」の中から腎移植を選んだ理由

患者さんは、血液透析を時間的制約から、腹膜透析を長期的な継続が困難な点から躊躇していました。それでも、もし腎移植の提案がなければ、透析でやむなしとなっていたことでしょう。腎不全になっても仕事を継続しなくてはならないため、腎移植についての説明を再度希望されました。「献腎」移植は10数年の待機が必要なこと、「生体」腎移植は提供者が親族に限られることを説明しました。また、透析をしないまま腎移植を実施する「先行的腎移植」も可能なことも話しました。

〈 4 〉 ドナー(提供者)の受診

患者さんは独身で兄弟はなく、母がほぼ唯一のドナー候補でした。2020年8月、ドナー候補として60代の母が「腎・透析センター」を初診。息子さんが末期腎不全へと至りつつあることを説明。母からはドナーの条件である「無償での自発的な腎提供」の希望を確認しました。その上で、仮にドナーになっても、寿命を縮めることはないのはもちろん、これまで通りの生活が送れることを説明しました。その後、患者さんと母には腎移植に向けての各種検査を数回の通院で受けていただきました。

その結果、母には持病である軽度の高血圧のみで、腎機能は十分に良好、悪性腫瘍や糖尿病など併存疾患はなく、心肺機能にも問題ありませんでした。母はさらに当院の総合診療科医と面談して、身体的心理的評価と社会的背景に関する評価からドナーとして問題ないことも確認しました。

〈 5 〉 腎移植に向けた術前検査

ドナーと患者さん(レシピエント)ともに、血液・尿、レントゲン、心電図、CT、胃カメラなど、病院でごく普通に行われている一般的な検査ばかりです。唯一、移植のための特殊な検査として、血液を用いて拒絶反応を予測する「抗体検査」があります。これを保険適応のない精密検査まで行った場合、多くの病院では患者さんが自費で支払っていますが、当院では病院側で負担しました。

〈 6 〉 腎移植に向けた病院側の準備

生体腎移植実施施設としての申請を厚生局に提出して受理されました。院内倫理委員会でも症例が個別に検討され承認を受けました。手術室・ICU・病棟とそれぞれカンファレンスを開き、手順などを確認しました。

〈 7 〉 入院

腎移植2日前の2020年12月、ドナーと患者さんに同日に外科病棟に入院していただきました。同行されたドナーのお姉さんを交え、手術についての説明をし、自分自身の手術だけではなく、ドナー・患者さん双方の手術も理解してもらった上で同意を得ました。患者さんはこの日から免疫抑制薬(グラセプター、セルセプト)の内服を開始しました。この時点で、クレアチニンは7を超え、透析を開始してもおかしくない末期腎不全に至っていました。ドナーは術後鎮痛目的に使う硬膜外カテーテル(背中からの細いチューブ)を手術前日に麻酔科医が挿入しました。

〈 8 〉 手術

朝、ドナーが手術室入室、全身麻酔下に左の腎臓を摘出し、手術時間3時間30分で無事終了、出血量50mlで輸血なし、麻酔から覚醒してICU入室。患者さんは昼ごろ手術室入室、全身麻酔下で右下腹部に腎臓を移植、血管吻合して血流再開後15分で尿の流出を確認、手術時間3時間29分で無事終了、出血量300mlで輸血なし、麻酔から覚醒してICU入室。その後も持続的に300~400mL/時の排尿を認めました。

手術開始前の手洗い

ドナーから摘出した腎臓の灌流
(血液の洗い流しと冷却)

血管吻合

〈 9 〉 術後経過

ドナーは翌日には食事再開し、術後3日目には点滴などすべて体から外れて自由に動いてもらいました。5日目には傷のテープを剥がしてシャワーを浴びてもらい、退院を許可しました。患者さんも翌日に食事再開し、術後4日目には点滴終了、5日目には尿の管を外して傷もフリーになり、シャワーを浴びてもらいました。7日目にはクレアチニン1.6まで低下、10日目には入院時の体重80 kgから71 kgまで浮腫がなくなった分、減少しました。退院を予定したのですが、15日目に遅発性尿管壊死による尿漏が判明したため、移植尿管を自己尿管に吻合し直しました。そのため入院が少し長くなったものの、移植後26日目にクレアチニン1.6で退院しました。


患者さん退院

〈 10 〉 退院後

ドナーには退院後1週間で受診してもらい、体調や創部、血液検査に問題ないことを確認しました。次回は3か月後の受診とし、最終的には年1~2回の当院専門外来でのフォローをかかりつけ医と連携しながら継続していくことの重要性を説明しました。レシピエントは当初週1~2回、次いで2週おきと徐々に間隔をあけて受診してもらいながら、退院から18日後には仕事復帰しました。今後は、拒絶反応予防のための免疫抑制薬の調整や元々の腎臓病の原因になった糖尿病の管理を内分泌内科と併診して行っていきます。