多発性嚢胞腎とは
最も多い遺伝性腎疾患で、両側腎臓に多数の囊胞が進行性に発生・増大し、70 歳までに約半数が末期腎不全に至ります。わが国の透析導入の原疾患割合では第5位です。
多発性嚢胞腎の診断
常染色体優性遺伝が多く、親から子に50%の確率で遺伝します。そのため、家族内発生と超音波検査やCT検査による画像検査で診断は容易になされます。
多発性嚢胞腎の合併症
腎嚢胞の嚢胞感染や嚢胞出血の他に、肝臓にも嚢胞が多発し、さらには脳動脈瘤や心臓弁膜症の合併が知られています。末期腎不全に至る前でも囊胞感染や脳動脈瘤破裂など致死的な合併症を呈することがあり,早期診断と対策の重要性が喫緊の課題として認識されています。
多発性嚢胞腎の治療
根本的な治療法はありません。他の慢性腎臓病と同様、降圧療法などによる末期腎不全への進展抑制が基本です。加えて最近、トルバプタン(商品名サムスカ)による腎機能低下の抑制や腎容積増大の抑制を目指す治療が可能になりました。この治療は高額なため、難病医療費助成制度があります。当センター長の南木はこのサムスカ治療の登録医です。また、本疾患は加齢とともに両側の腎腫大が顕著になり,腹部膨満が強くなる患者が存在します。このような患者では食事が十分に摂れなくなり,栄養状態不良で全身状態が悪化していきます。こうした多発性嚢胞腎患者の腫大腎に対しては、腎動脈塞栓療法が有効な場合があります。しかし、縮小効果の不十分さや、疼痛や感染などの合併症が問題になることもあります。一方、手術による腎摘出は、腫大腎による腹部膨満の悩みを文字通り一掃することができ、嚢胞感染や嚢胞出血の懸念も一切なくなります。ただし、非常に巨大な腎臓を両側とも摘出するのはとても大変な手術になるため、この手術を引き受けてくれる病院が少ないのが現状です。
多発性嚢胞腎に対する両側腎摘出術
当センターでは、2022年8月3日、当院に通院透析している60代男性の多発性嚢胞腎に対する両側腎摘出術を成功させました。術前、嚢胞腎によって腹部は常に妊婦のように膨隆し、消化管の通過障害によって食事量が減り、慢性的な便秘で腸閉塞の危険もありました。4時間の手術によって左右の腎臓(おのおの2 kg以上、計4 kg以上)を摘出しました。術後合併症はなく、15日目に無事退院しました。上腹部は嚢胞がある肝臓による膨隆が残りましたが、4 kg以上の腎臓がなくなったことで、術後には病院食をほぼ完食できるまでになりました。この病気による腹部膨満にお悩みの患者様がおりましたら、いつでも気軽に当センターをご受診ください。