10例目の経過

当センター受診まで

55歳の男性、12歳時に県内の大学病院でIgA腎症の確定診断後、徐々に腎機能悪化し、46歳では主治医から透析の話も受けていました。54歳で腎移植の相談のために東京の大学病院を勧められたそうですが受診しませんでした。南木のことを知る県北部の腎臓内科医が当センターで相談するよう助言してくれました。2024年11月当センター初診した際のクレアチニンは6.71、eGFR 7.7とすでに末期腎不全でした。

血液透析か腹膜透析を開始しつつ献腎移植に登録するか、透析導入しないで生体腎移植にするかを話し合いました。一緒に来院した妻がドナー候補になってくれ、2人そろって外来で腎移植の術前検査を受けてもらいました。すでに末期腎不全であまり時間が残されていなかったため、2か月の準備期間で各種血液検査、CT・超音波などの画像検査、内視鏡検査などを終え、ドナーに必須の第三者による面談(当院では総合診療科)を受けてもらい、腎移植に臨みました。

血液型不適合腎移植

妻がB型、夫がO型でしたが、レシピエントである夫の抗B抗体価が低値だったため、血漿交感による抗体除去は行わず、移植前日にリツキシマブ点滴のみの前処置にしました。ドナーはこれまで通りの内視鏡手術で左腎を摘出、手術時間2時間36分で終了。提供いただいた腎臓の動脈が2本だったため、これを移植前に灌流液で冷やした後に1本に形成して、レシピエントの内腸骨動脈に吻合しました。移植した腎臓に血流を再開させて16分後に尿の流出を確認しました。手術時間5時間59分で終了、ドナーともども輸血せず問題なく手術は終了して、お二人ともICUに入室しました。

術後~退院まで

尿量は1時間あたり150 mLで安定はしていましたがやや少なく、今回透析を経ない「先行的腎移植」でしたので、まだレシピエント自身の腎臓からの尿も出るはずなので、移植腎からの尿量は少ないと考えました。しかし、エコー検査では移植腎の血流は一貫して良好だったことと、移植後11日目での移植腎生検(エコー下に針で数mmの組織を採取する病理検査)で拒絶反応などの異常が見られなかったことから、移植後15日目にクレアチニンが5.53と高かったものの、退院して外来管理に移行することにしました。

退院後

まず、気になる移植腎機能ですが、ゆっくりながらも着実に改善が見られ、移植後10か月でクレアチニン2.05まで低下しました。クレアチニンの最低値は通常退院時までに得られることが多く、今回遷延した明確な理由は不明ですが、腎動脈の再建による血流不全や移植した腎臓とレシピエントの体格のサイズミスマッチ(移植腎に比べてレシピエントの体格が大きい)を考えました。移植腎生検で拒絶反応などの治療を要する原因がなかったことを確認できていたので、患者さんも医師も我慢してじっくりと待ちました。他には、移植後2か月でサイトメガロウイルス陽性、3か月で好中球(白血球の一部)減少が見られましたが、薬剤で速やかに改善しました。どちらも移植前のリツキシマブによる影響と考えられ、血液型不適合移植のためしっかりとした免疫抑制を必要とした結果でもありますが、他にも可能な限りの感染症予防策として帯状疱疹ワクチンを接種しました。このワクチンはわが国では2020年から接種可能になり、以降腎移植患者にも積極的に推奨しています。

移植後1年の検査でもドナー・レシピエントともに問題なく、レシピエントはその後1か月ごとに通院し、現在まで再入院することなく元気に過ごされています。