13例目の経過

慢性腎臓病の管理と腎移植術前検査の同時進行

52歳の男性。30歳から職場でしっかり健診を受けてきました。38歳で高血圧を指摘されて内服治療開始。47歳には尿蛋白2+、クレアチニン 2.37、eGFR 25.3(ステージ4)のため、48歳で当センター腎臓内科を紹介受診して慢性腎臓病の管理を開始しました。まだ若いため、いずれ腎代替療法が必要になるにしても、その時期を少しでも先延ばしにできるよう、慢性腎臓病の治療薬であるSGLT2阻害薬フォシーガを中心に血圧、尿酸、コレステロールを下げる内服薬で管理しました。その甲斐あって、仕事を含めた通常の生活を継続しながら比較的安定した経過を辿りましたが、初診から3年を経過した時点で「腎代替療法選択外来」を受けてもらい、腎代替療法専門指導士の資格を持つスタッフから「腎移植」「血液透析」「腹膜透析」についての具体的な説明をされた結果、妻をドナーにして透析を経ない「先行的腎移植」を希望しました。これまでの腎機能悪化速度を参考にして、1年後に腎移植ができるよう慢性腎臓病の管理と並行して腎移植術前検査も開始しました。通常であれば、慢性腎臓病の管理と腎移植術前検査はそれぞれ別々の病院や診療科を受診することになりますが、腎躁病を総合的に管理できる当センターでは2つを同じ科で同時進行することができました。

血液型不適合腎移植

血液型はドナーである妻B型からレシピエントである夫A型で、夫の血液中に存在する抗B抗体価が2種類の測定法でともに低値でした。レシピエントにはリンパ球の抗体である抗HLA抗体も存在しましたが、これも少量でドナーに対しては反応しないタイプだったため、血漿交換はせず、移植前日1回のみのリツキシマブ点滴だけの脱感作療法にしました。

レシピエントが仕事休暇を取れる年末の手術日を希望したので応じ、移植2日前に入院して免疫抑制薬内服開始、ドナーは移植前日に入院しました。手術はいつも通りドナーが朝9時入室、これまで通りの後腹膜鏡(内視鏡)での腎摘術を2時間39分、出血量20 mLで順調に終了し、提供いただいた左腎は同時進行していたレシピエントの右下腹部に移植しました。血流再開後12分で移植腎からの尿流出を確認、レシピエントの手術時間は4時間8分、出血量300 mLで輸血なし、ドナーともども麻酔を覚まして予定通りICUに入室しました。

ICU入室後もレシピエントの尿量は1時間500 mL以上と大量に排出しました。透析導入していない患者さんでは自分の腎臓からもまだ通常量の尿排泄があることを差し引いても、移植腎からの排尿は十分と考えられ、このように尿さえ十分出ていれば、まずは安心できる経過と言えます。ただこの場合、脱水にならないよう尿量と同量つまり1時間500 mLの点滴で補う必要があるため、ICUでの管理が必要になります。その後もドナー・レシピエントともども順調に経過し、ドナーは術後5日目、レシピエントは8日目にクレアチニン1.36で自宅退院しました。

退院後

レシピエントは移植後2か月の定期採血でサイトメガロウイルス陽性となり、これは移植前に脱感作療法として点滴したリツキシマブによる免疫抑制の影響ですが、早期診断できたため、外来で抗ウイルス薬内服だけで消失しました。同時期に胃痛があってサイトメガロウイルスによる胃潰瘍の可能性がありましたが、ウイルス消失と共に症状も消失しました。また、糖尿病の指標であるHbA1cが上昇してきました。HbA1cは腎不全だと低下するので、移植後に腎機能が良くなって上昇してくることはよくあります。免疫抑制薬による薬剤性や体調が改善して食欲亢進によっても糖尿病が悪化し、移植後糖尿病と呼ばれます。この患者さんの慢性腎臓病の原因は、当初は腎硬化症や肥満腎症と考えていましたが、糖尿病性腎症がメインだった可能性もありました。いずれにしても今後は糖尿病のコントロールも必要になります。クレアチニンは1.10と良好で、仕事は出張も含めてバリバリ継続されています。ドナーともども当センター外来で管理していきます。